【漢方褒貶】胃腸障害への取り組み方

X月X日に来られた中年の方の漢方相談の主訴について考察してみます。直近の数日間の食事内容や間食の状況を記録してもらいました。また、血液検査のデータや現在服用中の医薬品も併せて確認します。 主訴は「食欲不振、疲れやすい、みぞおちの辺りがいつもかたく、気分が悪い」で、顔に張りがなく、少々元気のない顔つきなど、通常の胃腸障害によくある症状でした。

まず食事内容に関して、本人は常に留意しておられるそうですが、サラダなどが好物のようで多く、毎日ビールを飲む生活が長く続いており、胃を冷やす食生活が見えて来ます。温めた飲料より良く冷えた方を好む体質となっています。医療用医薬品は胃液の分泌を抑制するものが処方されています。もう半年以上も服用していて、それでも改善しないということで訪問されました。

漢方療法の取組み方を紹介します。まず特長的な病状として「みぞおちがかたく張る」症状を“心下痞硬(しんかひこう)”と言い、『半夏瀉心湯』が頻用される症状です。半夏瀉心湯は半夏5g、黄芩2.5g、乾姜2.5g、人参2.5g、甘草2.5g、大棗2.5g、黄連1gから構成されています。それぞれの薬性をみると、半夏・人参は水剤、黄芩・黄連は血剤、甘草・大棗は脾胃剤、乾姜は気剤です。
ヒトは体内の「気・血・水の巡りと脾胃」でエネルギーを造ることで健康な日々を送れます。このどれかが故障したり、アンバランスになったりすると病気に結びつく異常が発症します。
水の巡りが悪いと体は熱を持ち、炎症が出るわけです。炎症が出来ると血の巡りが悪くなります。いわゆる瘀血が出て来ますと気が塞がり、体内に異常が起こり、病気へと進行します。人為的に胃液を止め、胃の炎症をやわらげようとしても治りません。
それよりも胃の炎症の原因は冷えた飲食物の常食が大きな原因と考える必要があります。
胃に貯留した水を半夏・人参で、炎症でできた瘀血は黄連・黄芩で、冷えからのエネルギー不足は甘草・大棗の脾胃剤で、さらに滞った気は乾姜で巡らせるという処方になります。比較的初期の対応でしたから、せんじ薬の一ヶ月の服用でほぼ全快です。
これよりもさらに胃が冷えて弱っている場合は六君子湯(リックンシトウ)を用います。その処方は水剤の人参・白朮・芍薬・半夏、気剤の陳皮・生姜(ショウキョウ)、脾胃剤の大棗・甘草で瘀血の症状が認められない時に用います。便秘がある場合は瘀血の症状が取れませんので、処方を考え改めないと治りません。


薬剤師・医学博士 山原 條二

 

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